サッカーの母国だけあって、イングランドにはサッカークラブがいくつかある。
ロンドンを本拠地として戦うアーセナルもその一つだ。2004年、プレミアリーグを無敗で制覇したことや、稲本潤一が昔所属していたクラブとして知っている人も多いだろう。しかし、「リバプール」や「チェルシー」、「マンチェスター・ユナイテッド」に並ぶ列強クラブとして有名なアーセナルだが、クラブの運営自体はあまり褒められるものではなかった。
1931年に建設され、38000人を収容できる「ハイバリースタジアム」。
住宅街の中にあるこのスタジアムは、とりわけ地元民に根強く、愛されている。チームの人気に反比例してスタジアムの収容人数が少ないため、地元民以外のファンがチケットを買うにはほぼ不可能。そのためスタジアムの周りにはダフ屋が徘徊しているのも特徴だ。
イングランドのスタジアムは伝統を重んじて、どこも同じつくりにしている。メインスタンド、バックスタンド、ノースエンドとクロックエンドのゴール裏、これら4つのスタンドで構成されている。そして最大の特徴ともいえるのがピッチとスタンドが近いこと。
手をのばせば届きそうな、そんな場所で選手達がプレーをしている。これならば応援に熱が入るのも頷ける。決して止むことのない応援歌、手拍子。歌声はスタンドの屋根に反響してさらに助長させる。声と声が絡み合ってスタジアムとサポーターが一体化する。この地において、対峙するクラブは厳しい戦いを強いられる。もはや勝利の意欲すら失せてしまう。このスタジアムがあったからこそ、アーセナルは勝ち続けられてきたのだろう。
しかし、「ハイバリースタジアム」の収容人数の少なさは、クラブにとっては大きな痛手だ。そして老朽化による度重なるメンテナンスも限界に近い。アルセーヌ・ヴェンゲル監督による「お金をかけずしてトッププレイヤーを生み出す」方法は、クラブの状況もあってのこと。これによりクラブ側は、スタジアムから500メートルほど離れた場所に、約7万人ほどが収容できる新しいスタジアムを完成させた。これにより、いままでの倍以上の収益が見込める。そうなると、「ハイバリースタジアム」はお役目を終えることになる。取り壊しの話が当然出たが、地元住民は猛反発。自分達が愛し続けてきたスタジアムをそうやすやすと壊せることなどできない。
結局、伝統ある建築物として残すことになった「ハイバリースタジアム」。
もう、このスタジアムから声を聞くことは出来ない。陰で支え続けてきた「ハイバリースタジアム」は、地元住民の心から永遠に消えることはないだろう。
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